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2016年 08月 30日 ( 1 )

ゴボウの木の下で

うだるような暑さの昼下がり、涼を求めてイタチがふらつく足取りでやって来た。
夜を見失ったのか、はたまた昼更かしが過ぎたのか、目は真っ赤に腫れ、身体は
小刻みに震えてる。
鶏小屋の前に大きく葉を広げたゴボウの木を見つけ、イタチは倒れ込むようにし
て身体を根元に預けた。

その姿を小屋の中から見ていた雌鶏が笑う。
「あーら、ご無沙汰のイタチくん、真昼間ってのに何やってんだい。そんな不景
気な間抜け面では、いつまでたっても獲物にありつけないわよ。コッコー!」
イタチは疲れ切った頭をもたげてじろりと睨みつける。そしてつぶやくように、
「けっ、勝手にほざいてろ。どうせ、寒くなって黄色い脂がのってきたら、貴様
らの年貢納めの時だい!その時になって泣きわめいても知らねぇぞ!」
「ええ、どうぞどうぞいらして下さいな。確かに去年の冬は隙間だらけで、あん
たたちにさんざん殺られてしまったけど、もう大丈夫。この前、ダンナが一日が
かりでトントン直してたから。ま、この様子じゃ、冬どころか夏を越すのも難し
いようだわ。せいぜい身体気を付けなすってね、コッコー!」

イタチがギリギリと歯ぎしりしていると、背後でヒーヒーといううめき声が。
振り返ってみると、哀れ、麻紐でギュウギュウに縛り上げられたブルーベリー木
の姿。木肌に紐が食い込んで、風が吹く度に口から声が漏れてくる。
「おいおい何だ、ブルーベリーさんよ、一体どうしたってんだい?」
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに口を開こうとしたブルーベリーの御株
を奪った雌鶏がまくしたてる。
「なあに、怠け者のブルーベリーちゃんが色気ばかりで実を付けようとしないか
ら、うちのダンナがお仕置で縛ってんに違いないわ。ちやほやされて調子乗って
るからこういう事になるのよ。いい気味だわ。コッコー!」
ブルーベリーは激しく首を横に振って何か言葉を発しているのだが、麻紐がさる
ぐつわともなって、聞こえてくる音は「ヴーヴー」と「ヒーヒー」だけ…。

「あ、あ、あの、そ、そんな言い方って、な、ないんじゃないかな。鶏さん、ち
ょ、ちょっと、い、い、意地悪だと、ぼ、ぼ、ボクは思うな。」
上の方から声がする。イタチは大儀大儀に天を仰いだ。
「今度は誰だい、気弱な声を出してんのは!」
「コッコッコ―、うるさいわね!カボチャのくせして上から目線なんて。あんた、
誰からも相手されないからっていちゃもんつけないでよ。こぼれ種からたまたま
芽を出して、うちの屋根に上がって勝手に住み着いてるようだけど、どうせその
うちカラスに食い散らかされてご臨終だわ。あーミジメ、ミジメ。」
カボチャもまた言い返せず黙り込む。

「あー、どいつもこいつも嫌な奴ばかりねー。おまけに暑いし、雨は降らない。
エサは少ないし、夏の草は固いし、もー、ほんとムカつくから、夜にさっき産ん
だ卵を食べてやろう。どうせウスノロダンナは分かりゃしないわ。あれがなかな
か美味だんだよねー、コッコー!」
その時、イタチがニヤッとほくそ笑んだのを雌鶏は気付いてなかった。

翌朝早く、いつものようにダンナが眠い目をこすりこすり鶏小屋にやって来た。
そしていつものようにエサをあげ、小屋の外から手を突っ込み卵を取ろうとし
た。すると突然、ダンナが「あわわっ!」と素っ頓狂な声を上げてのけぞった。
そして恐る恐る中を覗き込む。
…暫しの沈黙の後、「くっそー!またやりやがったな、コノヤロー!」
ひとしきり腹を立てて、気持ちを落ち着かせ、ダンナは小屋の中へと消えた。
出てきた時には、右手にぐたーっと首が折れた雌鶏を抱えている。
もう彼は無表情、雌鶏の遺体を捨てるために山に登って行った。

(本文はフィクションです。しかし、実在の事件、実在の場所と実際の物を
 基にして作り上げました。)
by ut9atbun61 | 2016-08-30 23:50 | たまたま通信(養鶏) | Comments(0)