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プロレスナショナリズム

面白かった新書第2弾 『悪役レスラーは笑う』森達也
遥か昔、グレート東郷という日系レスラーがいた。(始めは“東条”と名乗ったらし
いが、流石に批判殺到したとかで東郷にした)
アメリカでは大ヒールで嫌われ者、日本レスラー界でもトラブって追放。余り良く
言う人はいない。出自はというと、両親共日本籍?母親が中国籍?どちらかが韓国
籍?様々な証言が出てくる。どれが真実でどれかフェイクなのか?結局分からずじ
まいで本は終わる。
筆者が言いたいのはそこではない。プロレスとナショナリズムの関係性だ。
そもそもプロレスの父、力道山は北朝鮮籍でありながら、バックの児玉誉士夫が
“日本人のシンボル”と演出してきた。愛国心を掻き立て高度経済成長を底支えした
1人でもあった。ところが本人自身は日本に永住する気は無く、また本国に帰る気
も無いと夫人に漏らしていたそうだ。おそらく本人にとって、プロレスはビジネス
であり、政治や思想に巻き込まれたくなかったのだろう。その力道山が慕っていた
人物であったグレート東郷は尚更である。日米で嫌われ更にはプライベートで晒さ
れるのは勘弁してほしかったに違いない。
結局プロレスショーは、ナショナリズムを体現する道具になり得る。
特にアメリカンプロレスは、善悪二元論でナショナリズムを煽ることで人気を博し
ていてきた。そんな白々しさになかにも、オチャラケた抵抗者が必ず現れてくる。
そこがプロレスのいいところ。
アメリカがイラク戦争をおっぱじめた時、WWFリングに3人のイラク軍風レスラー
が登場してきた(一人はサージャントスローターという超有名米国人レスラー)。
当時は、メディアはブッシュ批判を自主規制してた異様な時期だった。そんな時、
フセイン氏の肖像を掲げて、イラク攻撃の不当性をリングでアピールする。アメリ
カ国旗を掲げたベビーフェイスレスラーを反則攻撃で徹底的に痛めつける。観客は
憤慨し、頃合いを見て愛国者レスラーが反撃して最後はやっつけるというシナリオ。
アメリカではすぐに社会問題となり、ヒール役のスローター氏も身の危険を感じて
イラク軍団は消滅、いつの間にか彼は愛国者レスラーになってしまったが。
学生時代にリアルタイムで観てた私は、公平性を訴えて湾岸戦争を報道するマスコ
ミより、妙に共感を覚えた記憶がある。
グレート東郷も、意識的か無意識的にナショナリズムを投げかけてくれていたのか
もしれない。そのボールは誰も受け取ることなく、転々と転がっていき歴史の闇に
消えて行った訳だ。
そんなプロレスに最近、森氏が疑問を呈する。
「本来プロレスで重要なのは、対戦相手への破壊力ではなく、観客の説得力。曖
な領域を残しながらも技ばかりが過激になっていくプロレスは危険になってい
る。
まだルールが明確でレフリー権限が厳格なK1やプライドの方が安全。客
ニーズに応えながらエスカレートしていく。視聴率競争に奔走して表現として

本質的な力を失いつつあるテレビメディアに共通する課題。」

また最後の言葉は特に印象に残った。

「民族の誇りとか国家の忠誠だとか、そんな浮ついた安っぽい言葉で、人の心

を定義しない方がよい。人の心はもっと複雑だ。もっと多面的で豊かなのだ」

プロレスは非常にナショナリスティックでありながら、かなりいい加減な民主
主義でもある。そんなところに私は惹かれてしまう。


by ut9atbun61 | 2018-07-27 23:17 | Comments(0)
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