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車窓から見た農

ここ数日荒天が続いてたので、ケール収穫をさっさと済ませると、
昼間の読書タイム。ようやく、薪ストーブと向き合う至福の時間。
今年は随分忙しかったなあ、と振り返りながら頁をめくる。
只今開いてるのは「むかしの汽車旅」。
旅が出来ない腹いせでもないが、ストーブ小屋に行先表示板を飾り、懐かし
きJNRロゴ入りの車内灰皿(カチンと音を立てて灰を捨てる)を前に腰か
ければ、そんな気分。これで家が、カタンコトンと小刻みに揺れてくれれば
もう、言うことないんだが…。

内容はというと、鴎外の妄想に始まり(電車の窓)、漱石、芥川、太宰と大
御所がずらり並ぶ。彼らが気軽に鉄道エッセイを書いている訳だから、面白
くないはずがない。おまけに超短編なので、来客・電話あろうが腹も立たぬ。

この中で特に興味深かったのが、島崎藤村『甲武線』の紀行文。
おそらく、甲州武蔵野の略で現在の中央線だと思われる。
その車窓を見ながら、藤村がつぶやく。
中野を過ぎた辺り(つまり東京近郊地)の農業は、のんびりとした地勢に心
地よい耕地で、まるで庭園のようで楽しそうである。ところが信州辺りを見
ると、雪深い山の上で骨の折れる暮らしをしていて百姓は大変だ、と。
信州に住んでいた頃は前者を羨んでいたそうだが、東京に出てきて考えが変
わった様子。
「東京の近郊は、純粋に独立した農夫というよりもむしろ都会に向かって野
菜を供給するひとたちーいわば野菜作り…。野菜や雑草の性質をそらんじて
いるという点から言っても山国の百姓ははるかにすぐれて見える。一方に大
きな都会を控えて万事よりかかることのできる近郊の農夫は、それだけ物を
つかむ力を弱められている。」
と都市近郊農家には申し訳ないがあっぱれな視点。

へき地農業は、それだけ褒めてでもらわないとやってらんない。
価格に転化できるわけでなし、収量はむしろ少ない。
生きてるぞ!というのをより実感できるというぐらいか。
おそらく益田市内では、ケールを難なく収穫しているだろうが、おくがのは
雪をふるい落とし、手の震えも落としながらの収穫。同じ量でかかる時間は
倍!それだけに終わった時の満足感は大きい。工場に持っていくと、雪!と
驚かれて、何故だか自慢げに感じる。
余り意味が無さそうに思われるが、この錯覚は長く農業を続けていく秘訣で
もあるような気がする。

本を読み終え、明日の準備に取り掛かる。
明日から東京はUIターンフェアへ。
時間の都合上、“汽車旅”が出来ずに空を飛ばなきゃなんない。ハァー。
by ut9atbun61 | 2014-12-04 23:53 |
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