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おくがの民俗誌

 昼から近所のじいちゃんが、ちょっと“てご”(手伝い)してくれ、と言う。
やれやれ、自分の仕事が遅れ気味と言うのに…という心のささやきをよそに、顔で笑って
「いいですよ」といつもの調子で言ってみる。この繰り返しが、私をここに居つかせ、育て
てくれたと信じてるから。

 このじいちゃんには、随分世話になった。大工山師百姓だけあって、真冬の雪起こし(木
を雪から守る法)や鶏小屋建て、トラクター操作、獣の罠仕掛け方と捌き方。
中でも食べ物は特に。タヌキ、スズメ、サル、ヘビ、蜂の子、川の雑魚などなど。
しかしその一方で、かなりの曲者であったともいう。
血気盛んな時期、隣りの犬がうるさいからと言って狩猟用銃で撃ってみたり、自分とこの
おばあさんを土木作業でさんざん使っときながら、言う事を聞かず邪魔だったとかでパワ
ーショベルの柄先で…とか、ひどかったらしい。更にお酒の上の話は枚挙にいとまなし。
しかし、根っからのひょうきん。嘘か信かの世間話・自慢話は面白過ぎて、いつも時間を
盗られてしまう。周囲からは何故か憎まれない性質で勿論、おばあさんからは凄く愛され
ている。こんなじいちゃんも御歳85歳、昨年大病を患って、元気半分になってしまった。
そのいたわりの意味もあり、じいちゃんの頼みは無下に断れない。

 じいちゃんと2人、ダンプでU字溝を買いに行く。
「わしももう長くは無いけえ、別に放ったらかしにしてもいいんじゃが、もし誰かが田んぼを
作ってくれると言った時に苦労させないように」と言う事で排水溝を管理し易くするためだ。
「息子は雪の無いところがええと出たからのう、無理矢理留める訳にもいけんかった。」
あきらめと希望の狭間で揺れ動いてるじいちゃんは、妙に真面目だった。
「ああ、大丈夫。俺のような若いもんがこれからどんどん入ってくるから心配いらんよ。」
と当てもない事をつい言ってしまう。

 この田舎で自分好き勝手に農的暮らしを愉しみたい欲望と、このじいちゃんの意思を引
き継いで、農地を守っていきたいという大義が私の中で混ざり合う。
しかしそのどっちに傾く訳でもなく、いかにも中途半端でふらふら進んでしまう。
その姿を見かねて過ぎていく時間が、早く決めろと急かせるのだが…。
果たして明日は?来年は?じいちゃんの鬼籍時に?自分がじいちゃんとなった暁には!
自分で分かってなくとも、振り返った時にいつの間にか足跡が答えを出してくれるだろう。
そう思って、またもやきょろきょろしながら千鳥足で歩き出す。
by ut9atbun61 | 2013-12-04 23:02 | 田舎
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