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吉本隆明

 今しがたテレビで先日亡くなられた吉本隆明氏の特集をやっていた。
ちょっと見るつもりがつい引き込まれて、見終わってからも余韻冷めやらぬ所ありで
独り言の積りで言葉を並べたくなった。

 吉本隆明と言えば物事の本質を難解な文章で分析・批評というイメージが強い。2,3冊
手に取った事はあるが、理解できなかったり、誤解して読み進めたりと印象が悪い。しかし
糸井重里氏が関わってくるとまるで通訳者の様に分かりやすく、面白くなってくる。

 今回のテーマは、ズバリ芸術と言語。人生の集大成なので、端から訳分からんと構え
ていたが、これが意外と分かり易かった。そして共感。(薄っぺらい私の理解であるが)

 まず、言葉の根幹は沈黙にあると言う事。氏は自己表出(心から出てくる言葉?)
と述べているが、沈黙と言うのは生産工程の最重要部分なんだろう。

 私が近頃思うに、普通の人と芸術家と言われる人との違いというのは、単に自分の内
部にあるドロドロしたもの(考え・イメージ・言葉の原型)を、外に出せるか出せないかの
違いに過ぎないと思う。言ってしまえば、人は皆芸術家の卵で、美しい風景を見た時、
好きな人にときめいた時、悲しい場面に遭遇した時に、各々感性が働く。しかし殆どが
面倒臭いか意味の無い行為だと片付け、そのまま内部で消えていく。勿体ないと思う。
それらを表出する事に快感を覚えるか、何とかこの感動を人に伝えたいというおせっか
い屋が芸術家たる所以なのかもしれない。
 それと、社会の成熟と文明の進歩がややもすれば芸術を後退させるという論も肯ける。
科学技術が進歩すると人間としての原始能力(身体力・観察力・霊感?など)は退化して
いくのと同様、情報があふれ皆が賢く、忙しくなってくると、芸術的感性は鈍くなってくる。
むしろ必要性を感じなくなってくる。無駄な事を排除していくのが現代社会だから。
音楽で言えば、語り継がれる名曲と言うのは、いたってシンプルで誰もが口ずさむもの。
私の中では高田渡。氏曰く「ほんとうの詩とは、悩み悩んだ末に余計なものが全て無くな
ってフッとでてくるもの」であって、ギターも極力余分な音は鳴らさない事に徹している。
正に社会から外れてところで沈黙から紡ぎだしている唄を作っている。
 それに比すれば、今の日替わりヒット曲はかなり凝っていて、聴くに楽しいだろうがおそ
らく死の床で聴こうとは思わないだろう。

 私の農業の師匠が常に言うのが、「農業と文化は感性だ」。
深い意味は理解できないが、何となく分かる。何故なら私が今生活しているスタイルは、
普段農業をしながら暇な時には音楽を愉しんでいるから。
 私は沈黙の表現は苦手なので芸術家にはなれないが、感性を大事にして言葉を使っ
て音楽表現だけはしていきたいなと思う。
 無駄な時間を過ごしただけに、今夜は大いに励まされた。
by ut9atbun61 | 2012-03-26 00:56
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