高橋和巳 「堕落」

 3日前の大雨は久々の休息をもたらしてくれた。こんな時は本を開くに限る。
勿論、田草取りや草刈りなどやるべき事は山積しているが、目の前の事には閉眼。

 1960年代の時代の寵児作家、高橋和巳(今じゃ殆ど知られてないかな?)の「堕落」
を読む。読み応えは十分に余るほどで、のめり込む事半端なしだが、重苦しい小説だ。

 戦後、戦災混血弧児施設に生涯を捧げた主人公が、自らの過去によって奈落の底に
落ちていくという話。その道徳から狂気へのたたみかけが凄い。さながらハードボイルド。
そして最後に全ての原罪が明らかにされる。裏には満州という過去の暗い影が。
満州マニア(こういう発想がいけないのだろうが)の私にすれば色々、思うところありだが、
満州で日本軍がやってきた事は、果たして何だったのか?本書の言葉を借りれば、
「人が滅びるのは、自堕落によってではない。その人間を勇気づける理想によってなのだ。」
理想が人間を育てていき、そして崩壊させる。そこにやっぱり集団心理が働く。一方通行
的思考の安心感から無意識に思考停止へ向かう恐ろしさがある。
 ややもすれば自己弁護、責任転嫁(国家への)とも取られかねないエンディングだが、
常に罪からすり抜けていく国家と自己心中を決意する主人公の姿を私は感じた。

 原発にしろいじめにしろ国家の在り方は今も昔も変わっていない。ここいらで軌道修正
しないと、かつての轍を踏む事になりかねない。

 高橋和巳氏の小説はとにかく暗い。人間の業(ごう)の悲哀の部分ばかりを描く。
批判的な批評も多いが私は、自分にもどっかそういう所を隠して生きてる様な気がして
妙に共感できる。狂気の上から幾重もの常識という袋をかけてごまかしている…。
こんな本を読むことで、袋の中の淀んだ空気を入れ替えてはほっとしているんだろう。

 「堕落」を読んで行くうちに、自己変身小説(?)である中島敦「山月記」やカフカ「変身」
に通ずる様だ。それらをもう一度読み直して本書と結び付けてみたい。
[PR]
by ut9atbun61 | 2012-07-16 23:33 | | Comments(0)
<< たまたま訪問 番外編 停電 >>