阿Q正伝
集落で皆から“先生”と慕われている人から魯迅全集を借りて、久しぶりに阿Q正伝
を読み直した。内容の面白さはさることながら、深い…。おそらく解釈は千差万別。 今時流行らない作家ながら、私は常に意識の内にある。 阿Qというダメ人間。でいながら、「精神勝利法」(心の内では常に自分が勝利する) という超ポジティブな考え方で、世渡りしていくものの、最後は不条理な結末を迎える。 書評では、当時の中国の愚民性を鋭く批判したものと紹介されたりしている。 しかし実際の読後感は、舌鋒鋭く批判というよりは、温かく見守りながらダメだなと苦笑 いする魯迅が浮かんでくる(何より魯迅の中にも阿Qはいたようだし)。むしろ私は、阿Q に親近感さえ感じられた。 まず何よりも人間臭い。酒飲んで、騒いで、喧嘩して、翌日はけろっとしている。金も家 も家族も持たない究極の自由人で、何事もプラス思考。但し周囲の人間達が、意地悪な だけ(おそらく現実社会を象徴している)といっても過言ではない。当然そのような人種が 認められる社会は存在しないけれど…。 魯迅の魅力は何かと言われると、竹内好先生の言葉を拝借。 「彼は先覚者ではない。彼は一度も新時代に対して方向性を示さなかった。(略)彼は、 退きもしないし、追従もしない。(略)この態度は、一個の強靭な生活者の印象を与える。」 「魯迅は小説を“書かぬ”。“書かぬ”ことが自己表現。小説を書くことは過去の自己を 語る事。そうして自己を捨てることが出来る。とすれば魯迅が“書かぬ”ことは、いまだ 言葉とならぬ叫びがある。(略)“生きる”ことが魯迅の自己表現。」 私にはちょっと難しいが分かるような気もする。 敬愛する高田渡氏も、生活者の日常の唄を作り続け、「唄わない」ことが一番いいんだ と言っていた。究極の芸術表現がそこにあるんだろうなと思う。
by ut9atbun61
| 2011-10-04 23:06
| 本
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