霧と影
最近、再読した本。水上勉「霧と影」 。
水上氏の代表的な作品と言えば,「雁の寺」や「越前竹人形」等の女性の影がちらつく 哀愁漂うイメージが強いが、本作品の様な社会派小説も面白い。 特に、福井出身であるが故の日本海に面した山あいの寒村の自然描写は絶品。 ここ山陰にも通じるものがあり、始めて読んだ時はぞくぞくした。 「山桃の樹海は風が吹くと葉が全山にわたって裏がえった。そのたびに黒色に近いくす んだ葉の色が、若葉のような白みがかったグレーに光るので、何かの動物の毛なみを、 風が下からこすり上げるような、ふくよかな動きに見えた。」 舞台は「猿谷郷」と呼ばれる集落で、戸数わずかに四つ。住人は十二人。「陸稲と芋を つくり、炭焼きを業として…外界から杜絶され、自給自足の生活をしていた。」 美しくも鬱とした情景と、そのド田舎に残る因習や貧困が相まって、人間の内に芽生える 暗部。それが事件を引き起こす。しかし、その根底には決して個人を憎めない業(ごう)の ようなものが横たわっている。単なる推理小説としても楽しめるが、深い。 読後感は何故か人間の弱さがいとおしさを呼び覚ます。 水上勉氏の小説は、「古河力作の生涯」(大逆事件)もおすすめ。
by ut9atbun61
| 2010-11-17 23:19
| 本
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